短編「図書館」シリーズ七話番外編「蒼星石と水銀燈」

「…は?エッチな漫画?」
「うわ!ちがいますって!それにそんな大きな声で言わないでくださいよ!」

昼休み、図書室前のテーブルのある小さなスペース。そこで私…
水銀燈は、知り合いの後輩に呼び止められたのだ。

「だから…ええっと、女の子同士が…こう、一歩進んだ関係というか
 仲睦まじくというか…イチャイチャというか…そんな漫画を知りませんか?って…」
「ほら、だから女の子どうしのエッチな漫画でしょ?」
「だから!そんな大きな声で…!……まあ、そうなんですけど…」

その後輩は双子の姉妹の片割れで、校内の女子に人気の高いボーイッシュな少女。蒼星石。
聞いてきた内容は先ほど彼女が言っていたとおりだが…
恥ずかしい時にくらいは、彼女も女の子っぽいかわいらしい表情をするらしい。
私の発言に赤面して困る姿はなんとも微笑ましかった。
ボーイッシュで紳士的な面ばかりを見てもてはやしている女の子達は見る目がない。
こういう所にこそ、彼女の「良さ」があるんではないか。そんな事を思いながら話を続ける。

「…で、知りませんか?そういう漫画…」
「そうねえ…知らないことも無いけど」

そういう漫画…一応、覚えているだけでも、幾つか頭の中でリストアップしてみる。
大半の漫画はそれ「だけ」を扱ったものではないので選択肢から排除して…
その中には面白いのもあるのだけれど。○○は邪道ーーー!ネタのアレとか。いやアレは違ったか?
あと、今は古本屋をあさらないと手に入れるのが難しいセラ○ン系のアンソロも削除。

「普通に成年向けのでいいのねぇ?」
「う…それはちょっと…買いに行くのが……」

口ごもる。まったく真面目なものである。
確かに、そっち系の本は何故か成年指定のかかっていないものもあるけれど…
…しかし、それを考慮に入れてしまうと、残ったのはたった2冊だけ。
そのうち一つは数年前に再版されたものだけれど、元は10年以上前の作品。
アレも名作と言われているけれども…やはり、最近のものの方が手に入りやすいかもしれない。
…確か実姉妹話も入っていたし。
いや、彼女は別にそうだと口にした訳ではないけれど…私には見ていてとても判りやすく感じた。
結局、最後に残ったその一冊の漫画を推薦する。

「じゃあ、コレね。タイトルは…」

そんな時、丁度通りがかったのは、真紅。
焦る蒼星石と真紅のやり取りが面白い。思わずまぜっかえして反応を楽しむ。
しばらくして、真紅が図書室に入って行った後。

「はい。タイトルと、覚えてたから出版社も一緒に書いておいたわぁ」
「ありがとうございます!」

園芸部なのにやたらと体育会系っぽいノリの彼女は、メモを受け取りながら深々とお辞儀をして…

「蒼星石〜!どこですー?」
「あ、今行く!」

そして、彼女の思い人の元へと駆けて行ったのである。