「MYFAIRFRAGMENT」第6話「発端!二人の心はどこにある?」


翠「さあ、いうですよ!二人とも耳の穴かっぽじってよぉぉぉぉくきけですー!」

冬空の下、林に敷いたレジャーシートの上で。
翠星石は、とうとう話し始めた。一体何が、今回の双子の仲たがいの要因になったのかを。

そして同時刻。教室では

雛『それでそれで、一体何があったの〜?』
蒼『実は――――――』

雛苺、そして金糸雀と真紅―この二人には雛苺から手紙が回るはずである―に、
蒼星石から見た事情を説明していたのだ。

そもそもの始まりは、今朝のことであった。

蒼「いってきまーす!」
翠「いってきまーすですぅー!」

時計店の入り口から出て、歩き始める二人。
二人はいつもの様に他愛も無い話をしながら学校までの道のりを歩いた。
それは例えば、クラスのことであったり、園芸部のことであったり。
そんな中、昨日あった小さな事件の話が出た。

蒼「…そういえばさ。昨日翠星石、告白されたんだって?」
翠「何で知ってるですか!」
蒼「いや、だって昨日クラスでかなり噂になってたし。笹塚君が廊下でのの字書いてたって」
翠「むぅぅ…ちょっと断られた程度で女々しいのです!」

果たしてちょっとなのだろうか。普通に断られたくらいでは、
あそこまでの落ち込みようにはならない気がするのだが。
またもしやろくでもないことを言ったのではなかろうか…蒼星石の気持ちは不安に揺れる。
しかし聞いてはいけない気がする。聞いたらまたフォローに走らなくてはいけないのではないか。
そんな気がひしひしと感じられた。なので、蒼星石はそのあたりは適当にお茶を濁す。

蒼「いや、まあ…でもさ。何で断ったの?」
翠「あたりまえです!翠星石にはあんなチビは釣り合わないのです!」
蒼「だけど翠星石、笹塚君と結構仲良かったじゃないか。」

そう、見ている限り、翠星石は笹塚君とそこそこ仲は良かったはずだ。
笹塚君も悪い性格というわけではないのだし、他の女子達が話している恋愛話と照らし合わせてみた限り、
普通にOKしても良かったんじゃないか、と思えたのだ。

翠「そりゃあそうでぃすけど…それとコレとは話が違うのです」
蒼「もしかして、他に誰か…?」
翠「それは…」

その話はそこで終わりになった。丁度真紅たちと合流したのだ。
その後は学校まで二人は別の友達と話して歩いたし、
学校についてからも、HRが始まるまでの短い時間、花壇の柵の修理の準備で手一杯だった。
そして問題の昼休み。二人が花壇の近くのベンチで一緒に昼ごはんを食べていた時。

翠「朝の話でぃすけど…蒼星石。蒼星石だって何回も告白されてるじゃないですか」
蒼「…だってさ。あの子達はみんな女の子だよ?まさかOKするわけにも…」
翠「別に女の子だって良いじゃないですか」

いや、そこでうん、とか答えたら、それはそれで問題な気がするけど。
でも、それよりもなによりも。

蒼「だってさ…結局はみんな、僕が男の子みたいだからって、理想の男の子像を僕に重ね合わせてるだけだよ?」
翠「それは蒼星石がそれだけかっこいいってことです。告白したくなるくらいに」
蒼「でもさ。それだと僕本人を見てくれているんじゃなくって…僕みたいな男の子を僕を通してみているだけで…
  えっと。なんていうんだろう。それは、つまり僕そのものを好いてくれているってことじゃないでしょ?」

その気持ちを表現するのは難しかった。今まで蒼星石に告白してきた女の子は皆、何かが違ったのだ。
昼ごはんの時の話はそれで終わった。
そのあと、園芸部の子達が集まってきたので、朝準備した修理の続きを少ししようという話になって…
実際の作業に取り掛かっていたとき。翠星石は変なことを言い出したのだ。

翠「もし…もしですよ?蒼星石。もし、蒼星石そのものを好いてくれる女の子が居たら…告白されたら…
  蒼星石はどうするですか?」
蒼「ええ?うーん、どうだろう…それは、女の子なんだよね?」
翠「そうです。」

へんなことを聞いてくる翠星石。もしかして、誰かに仲を取り持つように頼まれたりしたんだろうか。
でも、翠星石にそんなこと頼む人って…勇気があるよなあとか思わなくも無い。
自分の姉ながら、翠星石はひねくれているし、意地も悪いと思う。それに少し子供っぽい所もある。
いや、もちろんいい所だってたくさんあるよ?たとえば、ほら…あれだ…えーと…や、優しいとか?
…まあ、ある。あるのだ。言葉に言い表せないような何かが。多分。
第一、蒼星石にとっては翠星石は優しい姉であるわけだし。確かにちょっと、いやかなり手はかかるけど。
それに、植物に対してだって優しい。…それ以外の人間などに対して、は横においておいて。
だから、そんな翠星石に恋愛関係の相談をすること自体が間違っているとかちょっと思わなくも無い。

蒼「…」
翠「何なのです。複雑な顔してこっち見んなです。」
蒼「あ、ごめん」

ああ、そうだった、質問だった。女の子…女の子かあ…誰だろ。まあいいや。

蒼「うーん、やっぱり断るかなあ…」
翠「ですか…」

なぜかしょぼんとする翠星石。
仲がいい子だったのかなあ…あとで金糸雀とか雛苺辺りに聞いてみればわかるかな。
その後は、しばらく無言で柵の修理をした。ある程度完成してきた所で、ふっと顔を上げた翠星石が

翠「じゃあ…男の子だったら?」

その時は、特に大事な質問でもない…っていうか、
男の子から告白されるっていうこと自体に現実味が無かったから。
冗談として軽く答えたつもりだった。

蒼「男の子だったら…相手によってはOKしちゃうかな?」

にっこり笑って立ち上がる。
翠星石は、そのときはしゃがんだままだった。

翠「……なんか」
蒼「ん?」
翠「…石なんか」
蒼「どうしたの?翠星石…」
翠「蒼星石なんか!私の気持ちなんてわからないのです!」
蒼「ちょ、ちょっとまって翠星石、何のことだかよくわからないんだけど…って危ない!」

翠星石は泣きそうな怒った顔をしながら、手近に合った作りかけの柵を振り回す。

翠「蒼星石、なんて、もう、知らない、の、です!!」
蒼「翠星石!そんなの振り回したら危ないよ!」

しかし、近寄ろうとした蒼星石に対してひときわ大きく振り回したとき。
不運なことに、柵は翠星石の手を離れて蒼星石に向かって飛んだのだ。

翠「あっ!」
蒼「う…わあっ!!」

幸い当たる事はなく、柵そのものは花壇の中に突き刺さった。
しかし、避けようとしてバランスを崩した蒼星石は、
花壇と周りの地面の境目で足をひねってしまい、そのまま花壇の方に倒れこんでしまった。

翠「蒼星石!」

びっくりした翠星石は、はじめは駆け寄ってこようとしたみたいだった。でも…

蒼「…いったぁ〜…」

起き上がろうとした蒼星石と目が合った瞬間に…

翠「…っ!蒼星石のバカーーーーー!!!」

大声で叫んで、そのままどこかへ走り去ってしまったのだ。

蒼『…そのあと、他の園芸部員の子に保健室まで肩を貸してもらったんだ。』
雛『そんなことがあったの〜』
金『それは…ちょっと翠星石がかわいそうかもしれないかしら』

蒼星石が大体の今までの経緯を、手紙で雛苺に説明すると、雛苺と…
雛苺に教科書を見せている金糸雀からそんな返答が帰ってきた。

蒼『そう…なの?僕、なんで翠星石が怒ったのか全然わからなくて…』
金『あえて言うなら、「全部」かしら…』
蒼『でも、ほんとに普通に話してただけだし…』
金『蒼星石にその気がないのなら、姉妹だし仕方がないかもしれないかしら。
  でも、蒼星石はもう少し女の子の心の機微を勉強した方がいいかもしれないかしら〜』
雛『その気ってなあに?』
金『雛苺にはちょっと早いのかしら〜』
蒼『そんなこと言われても…僕だって一応女の子なんだけど』

金糸雀はわかっているようだった。しかし、蒼星石にはさっぱりわからない。
授業を受けながら、二人から帰ってきた返答に首をひねる。
しばらくして、二人からまた手紙が飛んだ。
蒼星石が振り返ると、金糸雀が小さく手を振っている。どうやら金糸雀だけからのようだった。
となりの雛苺は、なにやら楽しそうに真紅に手紙をたくさん投げている。
何か楽しい話でもしているんだろうか。…あ、真紅の頭に消しゴムがのった。
そんな二人を眺めてから、あらためて手もとの手紙に目を落とす。そこには…

金『金糸雀から、鈍感な蒼星石にアドバイスかしら。
  今後、もし翠星石に何かびっくりするようなことを言われても、
  どう答えるかはともかくとして、
  冗談とか思わないで真剣に聞いてあげて欲しいかしら。
  それ以上は、本人の口から聞くのが一番かしら』

蒼「びっくりするような…こと…?」

つぶやいてみても、一体それが何であるのか…蒼星石にはまったくわからないのであった。


<次回予告>
蒼星石が首をひねった同じ頃、翠星石は校舎裏の林で修行を積んでいた!
しかし水銀燈と薔薇水晶の必死の説得により、彼女は蒼星石との最終決戦を決意!
事態は急展開へと向かい始める…!?
金「今回は大活躍だったかしら〜♪」
紅「っく、蒼星石にあの姿を見られていたなんて…!」
雛「真紅に手紙投げるの楽しかったなの〜。
  次回、「MYFAIRFRAGMENT」第7話「復活!翠星石!」お楽しみになの〜」

注:実は既に次回は出来あがっていますが、つまらないのであえて嘘と本当を混ぜてお送りしております。

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