みそ汁で朝食を 双子編 銀薔薇編



土曜日の朝。おじいさんとおばあさんはいつものように早起きで、
いつもより少し遅く起きた僕が一階に降りると、二人でお茶をすすりながらテレビを眺めていた。

「おはようございます。おじいさん、おばあさん」
「おはよう」
「翠ちゃんがまだ寝ているから、起こしてきてくれる?その間に朝ご飯をあっためておくから」
「はい」

先に洗面所で顔を洗ってから、すぐに2階に戻って翠星石の部屋の扉を叩く。

「翠星石!朝だよ!」

反応が無い。まだぐっすり寝ているのだろう。

「あけるよ?」

どうせ聞こえていないだろうけれど、一応声をかけてからそっと扉を開く。
とたんに部屋からむわっとした空気が流れて驚いた。
原因を求めて辺りを見回すと、案の定、机の近くに置かれたオイルヒーターが付けっぱなしだ。
昨日の晩が少し寒かったのでそのまま寝てしまったんだろう。
振り返って布団の方を見れば、掛け布団を蹴っ飛ばしてひどい格好で眠る姉の姿。

「もう…」

ため息をついて近寄る。お腹丸出しのこの寝姿では、
さすがにかわいいなあとかそういう感想は逆さに振っても出てこない。
いや、逆にこの無防備っぷりが良い、という考え方もあるかもしれないけれど。
それも子供の頃から見慣れてしまっては、いまさら感慨深くも何も無いよね…

「起きて!翠星石!朝ごはんだよ!」
「…はろ…にゃ…朝ごはん…赤いものか…お前が本物の猫かー!…むにゃ」

がっ!
…何この寝言。っていうか叫んだ時に振り回した手が鼻に当たった。痛い。
鼻を押さえながら下を見ると、翠星石はいまだすぴょすぴょと幸せげな寝顔で眠っていた。
鼻の痛みも治まったので、仕方なくもう一度…今度はゆさぶりながら声をかける。

「ほら起きて!もう朝だってば!!」

ゆさゆさ。手をかけているのはもちろんお腹。間違っても胸じゃない。
…さっきの報復に、いっそわき腹や弱い所をくすぐりまわしてやろうか、とか
素肌そのまま触るのもあれだし別の所を触って起こした方が…とか
ちょっとだけ思わないでもなかったけれど。
しかし朝から何をする気だ自分、というセルフツッコミによりその選択肢は回避。
素直に揺さぶり起こす。…が、起きない。
それでもあきらめずに揺さぶっていると、再び寝言の気配。

「ただ…ただき……かみねこーーーーー!!!」

がごっ!
!!!!!!!!! 跳ね起きた翠星石の頭が…顔に……

「…蒼星石…ふあ…あれ?何で私の部屋にいるです?」

のたうちまわる僕をよそに、翠星石は欠伸をしながら不思議そうな顔で問う。

「だから…起こしに…」

そしていまだにじんじんする顔から手を離した瞬間、零れ落ちる赤いもの。時が止まった。
…しばらく経って、畳が殺人現場に変わった頃、僕らは慌てて動き出す。
僕は机の上のティッシュに手を伸ばし、翠星石は、蹴っ飛ばした布団を慌てて手繰り寄せ、
壁際に逃げる。…逃げる?

「え…なんで逃げるの」
「蒼星石、いくらなんでもそれは変態です!
 恋人になったとはいえ姉の無防備な寝顔を見て鼻血ふくような子に育てた覚えはないです!!」
「ちょ、まってそれ凄い誤解!」
「朝からあんなことやこんなことをしようとしてたですね!見損なったです!」
「だからなんでそうなるの!ない!ないから!!…一応」

さっきちょっとだけいたずらしようとしたことを思い出して、いまいち強くはいえなかった。

「…そんなの信じられるかです!!!」

…結局。その強く言えなかった一言のせいで、
僕はその日一日変態妹呼ばわりされたあげく、学校では話を聞いたみんなからかわれる羽目になった。
水銀燈にいたっては、「若いから仕方が無いわよねぇ」とか良くわからないことを言いながら
頭をなでてきた。そこでまたひと悶着があったのは別の話。

最終的には誤解はとけたものの、まだしばらくはからかわれ続けるんじゃなかろうか。
そんなことを考えてうなだれる僕の隣で、今翠星石はまたすぴょすぴょと幸せそうに眠りこけている。
人をあれだけ大変な状況に追い込んだのにもかかわらず、その元凶はいたって平和な顔。
僕はため息をついて、朝から丸出しで冷えたであろうお腹に毛布をかけてあげた。
そしてひそかにその寝顔に誓うのだ。

明日はもっと迅速かつ可及的速やかに叩き起こしてやる、と…




おはようございます薔薇水晶です。
時は朝…今日は水銀燈のおうちからお送りする、サルでもできるお手軽簡単料理教室…
今朝は水銀燈のお母さんが外にお泊りでいらっしゃらないので…
私が朝ごはんを作って二階へ上がり、優しく揺り起こして水銀燈と朝からラブラブ計画…
………は。早くしないと…もうすぐ水銀燈が起きてくる時間…

まず、白いご飯…は、昨日の晩のお残りがあります。お漬物もあります。
アジのひらき…もラプラスに持たせてもらいました…これは網で焼きます…
ここに足りないもの…そう、おみそ汁…
おみそ汁の作れる女性は家庭的…私のそんな魅力で銀ちゃんノックアウト…よし。がんばろう。

まず お湯を沸かします…そしてだし…を入れるんだっけ。
ごそごそ。…うん、そう。ラプラスのお料理メモ…役に立つ。可愛いウサギのメモ帳だし……
だし。だしのもと……ないなあ。
メモに寄ればだしはにぼしから取るらしい。…から、にぼしを入れておけばきっと大丈夫。

次。煮立ってきたら味噌を……これかな?でも酢味噌…きっと大丈夫、味噌だから。
おたまに半分くらい…入れる。どぼん。
かきまぜて…次は具。ワカメがいい、ってかいてある…でもそのくらいではきっとたりない。
水銀燈が今日一日元気ですごせるような具を入れてあげたいと思う。具……元気…にんにく。ぴーん
にんにくの皮…はきっと食べられないから剥いて、入れる。
あと、ワカメもいれる…小さいなあ。一つまみじゃ足りないかも…一掴みくらい入れれば足りるよね。
他に元気になるもの……うなぎ…はさすがに無い…
は、そういえばこの前のお昼にみ○さんが…納豆は体にいいって言っていた。OK納豆。どば。
冷蔵庫にとろろ昆布。これもきっと体にいい…ざば。
もずくもある…これも体にいいって言ってた…○のさんはほんとにためになることを言う…
……

…うん、煮立ってきた。…でもなんだろう。ワカメが一杯でおつゆが見えない。
一掴みはちょっと多かったかな?…少し水を足そうかな
でも、鍋の大きさが足りないかも。ちょっと大きいのに変更。ざばあ。

よし、また煮立ってきた。味見…あれ?なんか味が薄いなあ…
そう、前にラプラスが料理の基本はさしすせそって言ってた。
きっとそれを加えたら美味しくなるのかもしれない…よし。いれてみよう。
さとうと、しょうゆ…お酢、せ …せ?せ…せ…なんだろう。せ…せいしゅ?お酒。
そ…そういえばお塩が入ってない。ソルト…そがお塩?ううん、いいやいれとこう
多分最初の4つがちゃんとしてれば大丈夫だよね…入れて、と。
水銀燈はお酒が好きだからお酒は心持ち多めに…
あ、好きなもの、といえばヤクルトも入れたほうがいいのかな…
ううん、この前乳酸菌が死滅するからあっためちゃダメ、っていってたね。だからこれはデザート…
よしできた。完成完成。じゃあ、水銀燈を起こしに…

「おはよぉ…ママぁ?…って今日はお出かけだったわねぇ…」

欠伸をしながらリビングに入ってくる水銀燈。
丁度起きて来たみたい。残念。優しく揺り起こす計画が…
でも、ご飯はちゃんと出来たから食べてもらおう。アジのひらきも…あ、まだ焼いてなかった。
しょうがない…具も一杯入ってるしおみそ汁をおかずに食べてもらおう…今度から気をつけなきゃ。

「あらぁ、薔薇水晶朝ごはん作ってくれたのねぇ。ありがとぉ」
「…座ってて。今そっちに運ぶから…」

ご飯をよそってお漬物を小皿に。そして朝のめいんでぃっしゅのおみそ汁を注いで持っていく。

「おみそ汁…」
「作ったの?凄いわねぇ…料理苦手だと思ったのにいつの間にか頑張ってたのねぇ」

水銀燈はにこにこしながらおわんの中を眺める。
でも、ワカメばっかりで中のみそ汁自体はほとんど見えていない。

「ごめん…ワカメちょっと多すぎちゃった」
「あら、私ワカメ好きだから問題ないわよぉ。じゃあ、いただきまーす」

水銀燈が、私が心を籠めたおみそ汁を口にする。中の具を一緒に箸でかきこむ。
お椀を置く。箸をおく。動きが止まる。
……そのまま横に椅子ごと倒れた。慌ててかけ寄ると、水銀燈の顔が青い。大変だ。

「水銀燈!…大丈夫!?…おいしくなかった……?」

抱き起こして顔を覗き込むと、しばらく放心していた様子の水銀燈が動き出す。

「ちゃ、ちゃんと美味しかったわ…ちょっとめまいがしただけよぉ」

私の手を借りて何とか椅子に座りなおしたが、いまだに顔が青かった。

「…体調悪い?今日学校休む?」

めまいで倒れたりなんて、大変だ。熱か風邪かもしれない。もしやインフルエンザ?

「う、ううん、大丈夫よぉ?」
「でも心配だよ…じゃあ、おみそ汁に元気になるもの一杯入れたから、たべてから行こう…?」

そのことばに何故かぎょっとした顔をする水銀燈。でも、じっと見ているとにっこり笑って

「わかったわぁ。じゃあありがたく頂くわねぇ」

そして、水銀燈は一気におみそ汁を食べ終わり、
ヤクルトと、冷蔵庫をあけて出した1リットル紙パック入りピルクルを
一気飲みしてから急いで着替えに行った。水銀燈、大丈夫なんだろうか。
でも、にんにくも納豆もすあまももずくもとろろ昆布も入れたのだから、きっと元気になるよね?
そう思って、私はお皿を洗い、残ったみそ汁に蓋をした。

以上、薔薇水晶の愛の手料理教室でした。
…ちなみに、水銀燈はやっぱり無理がたたって、学校についてすぐ倒れてしまいました。
元気になってもらうために、私は明日も愛の手料理を持って水銀燈のおうちにいこうとおもいます
まる