「ああもう、見失ったー!」

遅刻間際の生徒達で混み合う、寮の最寄駅のホーム。
乗り込む人の波に流されていくハルナ達は、案の定追っていた二人を見失ってしまう。

「このかも刹那さんも背は高くないのだから、この人ごみでは仕方ないでしょう、ハルナ。」

新しいパックジュースを手に、冷静に夕映は言う。

「わかってるけどー。でも満員電車とか格好のネタスポットなんだってばー!」

果たして木乃香を本当に応援する気があるのかどうなのか。
夕映の呆れた視線をものともせず、ハルナは叫ぶ。

「ほら、いいから乗りましょう。そろそろ行かないと私たちが遅刻してしまうです」

丁度やって来た列車に向けてぎゅうぎゅうと押されていきながら、途中でふとハルナが首をかしげて。

「あれ?そういえばのどかは?」
「……気付いてなかったんですか。さっきすごい勢いで人の波に押し流されて、
 反対ホームの方へいってしまったので、龍宮さんに救助をお願いしました。」

―――

5分前。

「きゃー!?」
「のどか!」

駅の構内に入った途端、反対ホームへと行く人の波にさらわれて、
あっという間に流されていくのどか。
夕映は一生懸命手を伸ばしたが、案の定届かずに、そのまま反対の方向へ……

「ま、まずいです」
「私が行ってこよう。後で合流する」

そんなとき、頼りになるのは助っ人一号。
それだけ告げて、この人波の中でも目立つ長身を翻し反対ホームへの流れへ向かう。

「龍宮さん、のどかをお願いします!」

―――

「……こんなことが」

説明し終わったあたりで、ホームに響きわたった放送。

『扉が閉まります。駆け込み乗車は、お止めください』

同時に、人が扉に向かって殺到する。

「わっぷ!」
「ハルナ!」

丁度扉の近くにいた二人はあっという間に巻き込まれて、ハルナは中へ。
夕映は外へとそれぞれ流される。
慌てて潜り込もうとするが、ギリギリまで人を詰めた列車の扉は、無情にも目の前で閉じてしまった。

「ゆえっち!?」

乗り損ねた人たちがため息をつく最中。そろそろと列車が動き始めた時、唐突に夕映の姿が消えた。
一瞬何が起こったのか、とハルナは目を擦ったが、しかし再び目を開いた時には
駅のホームは既にはるか後方へと過ぎ去った後。

「……うーん。ま、大丈夫……だよね?」

列車は出発してしまったのだ。今更戻る事もできないわけで。
気にしない事にして、ハルナは素直に満員電車に身を任せた。

一方その頃。

「さむっ!さむいです!」
「まあまあバカリーダー。慣れれば結構快適でござるよ」

走る列車の屋根の上、本来人が居るはずの無い場所に、二人の少女が座り込む。
というか、張り付いている。

「加速中は、頭を高くするとちょっと危ないでござるよ」
「わ、わかったです」

一体どうしてこんな事になっているかといえば。
列車に乗り損ねてしまった夕映は、気がつけば一瞬で屋根の上に居たのである。

「間一髪、セーフでござるな」

言いながら、楓は屋根の低い部分に夕映を降ろす。

「間一髪、ってここに乗っていくのですか……?」
「拙者はいつも此処が指定席でござるよ」

言ってる間に、列車は走り始めていく。
強くなっていく風に、楓は「頭を低くするといいでござる」等と言って、
自分は姿勢を変えずにそのまま座り続けた。
それから数駅が過ぎ、いい加減夕映も屋根の上に慣れ始めてきた頃。

「……おや?」
「スピードが遅くなったです」

突然、列車の速度が遅くなって、そのうちに動きを止めてしまったのだ。
首を傾げてから、夕映はポケットから携帯を取り出した。

「ハルナにメールで聞いてみるです」
「あいあい」

しばらく経って、すぐにメールが返ってくる。

『屋根の上!?いいなー、おもしろそー。
 あ、あと、この先信号機故障のためしばらく列車が停止します、だってさ』
「……だそうですが」
「ふむ。ならば遅刻の心配はなさそうでござるな」
「そうですね、一安心です」

列車の事故で遅れた、などの理由であれば、申告すれば遅刻は免除されるのだ。
一転してまったりムードになった夕映と楓の元に、屋根の上を歩いてくる二人が。

「ゆえ〜!」
「のどか!?何故こんな所に」

抱き合う夕映とのどか。それを見守る長身二人は、互いに軽く手を振って。
しばらくして、合流した事をメールでハルナに伝えると、

『え、ちょ、みんな上なの!?いいな、あたしも上りたい!』

そんな返信が即返って来た。
かくして、5人は揃って学園への道を歩く事になったのであった。

「みんな、学校着いたらばっちり二人を見守るよ!」
「お、おー!」
「おー♪」
「……まだやるつもりですか」
「ははは」

そんな、出歯亀5人組の登校風景のお話。