「The girls of rumor」1話「夢に見た君」
翠「翠星石は、蒼星石のことが好きです!!」
教室の中央で、翠星石が叫ぶ。その姿が、いつかの自分に重なって…
ちがう!それは私が昔、言えなかった言葉。結局言えずに終わった言葉。
私が大きく否定の言葉を発すると、唐突に場面が変わってゆく。
?「私は好き。あなたが好き。○○○。だから…」
春の花咲く草原に立つ人の姿は、最初はぼやけて見えていた。
認識できたのは、流れるような黒髪。つややかな鴉の濡れ羽色。
私はどんどんその人へ近づいていく。
しかし、その姿は徐々に黒から淡い色へと変わってゆき…
薔「…私は水銀燈が好き」
私を見上げる無表情なあの子の姿に――
銀「!!!?」
がばぁ!
そこは、いつもの見慣れた天井。荒く息をつく水銀燈。
一度大きく深呼吸をして、あらためてベッドに倒れこむ。
銀「いまさら…しかも一体何なのよ…」
そうつぶやいて、時間を確かめるために横を見る。
姿勢を戻す。
横を見る。
確かに居る。片目が眼帯に覆われてもなお、天使のようにかわいい寝顔。
薔「…すぅ…すぅ…」
その唇は、まるで何かを誘っているように…
銀「っだーーーーーーーーー!!!!」
薔「…?ふぁ…おはよう。水銀燈」
突然の大声に目を覚ます薔薇水晶。
銀「なんであんたがここで寝てるの!いつの間に!っていうかここ私の家!」
薔「…入れてもらった。30分くらい前に来た。学校一緒に行こう。」
見てみれば、薔薇水晶はたしかに制服を着ている。時間も、大体いつも起きる時間で間違いない。
…いつも起きる時間?
銀「薔薇水晶?なんでこんなに早くうちに来てるの」
薔「昨日、「銀ちゃんの寝顔が見たかったら、もう30分はやくいらっしゃい」…って」
ズバァン!!ドタドタドタ…
凄い勢いで扉が開かれ、階下へと走り下りてゆく音。
薔「だから…1時間くらい早く来て…見ました」
語りかける相手が消えてしまったので、薔薇水晶は仕方無く再びベッドに寝転んだ。
薔「水銀燈のにおいがする…」
くぁ…小さくあくびをすると、再び眠りの世界へと。
一方、階下では。
銀「ママ!!」
銀ママ「あら、おはよう。朝ご飯できてるわよ。」
銀「おはようじゃないわよ!何であの子が部屋に入ってきてるの!」
銀ママ「折角早く来てくれたんだから。上がってもらわないと悪いでしょ?」
人がこんなに怒っているというのに。
やはり母は強いものなのか、それとも年の功なのか。柳に風と受け流されてしまう。
銀ママ「それに、嫌というわけでもないんでしょう?
折角あんなに慕ってくれているんだから。友達は大事になさい」
にっこり笑い返された。友達、ね。勢いをそがれて大きくため息をつく水銀燈。
銀「そういう問題じゃないんだけど…」
顔を洗って歯を磨いてから、朝食の皿を片手に階段を上がる。
様子を見に部屋へ戻ると、薔薇水晶は案の定また眠ってしまっていた。
早起きしすぎて、まだ眠いのかもしれない。
二人分のサンドイッチを今は横において、水銀燈は手早く身支度をし始めた。
・・・
銀「なんで起きないのよぉ!」
薔「ごめん。昨日は深夜映画が面白くてつい夜更かしを…」
銀「だったらわざわざ早起きしてうちに来なくてもいいじゃなぁい!」」
薔「これはゆずれない…」
暫く後、学校までの道のりを走る二人。
最短ルートなら、あの開かずの踏切を時間内に超えられればなんとかセーフ!
銀「間に合って…!」
しかし無常にも、まだ踏切が見えはじめたくらいのあたりで警報は鳴り始めている。
なんとか踏み切りの前に立ったときには既にバーは降りきってしまっていた。
銀「ああ、もう…」
薔「ごめん…」
さすがにしょんぼりとする薔薇水晶。
銀「仕方が無いわぁ。で、その面白かった深夜映画って、どん…な…」
不意に水銀燈の動きが止まる。
目線は踏み切りの向こう側。薔薇水晶がその視線を追って…
ゴッ!!ガタタタン、ガタタタン…
電車が走り抜ける。向こうの景色はもう見えない。それでも動きを止めたままの水銀燈。
控えめに制服のすそを引っ張られて、やっと気がついた。
銀「…あ!あぁ、ごめんねぇ…で、どんな話なの?その映画」
薔「何が見えてたの?」
銀「!…ううん、なんでもないわ。ちょっとぼぉっとしちゃって」
薔「嘘。なんでもなかったらあんな風に…」
薔薇水晶が普段より饒舌になっている。
水銀燈は、彼女の頭をぽんぽんと撫で、苦笑とともに仕方が無いな、と肩をすくめた。
銀「ちょっとね…昔の知り合いが居た気がしたのよ。それだけ。」
そしてそれ以上は聞くな、とでも言うように、目線がそらされる。
釈然としない薔薇水晶であったが、これ以上無理に聞くようなこともできない。
その後は、踏切が開くまでの20分を昨晩の映画の話に費やした。
薔「それで…アフリカの大草原に落っことされたキョンシーが…」
銀「なにそれ。一体どこの映画なのよぉ」
薔「…香港?」
やっとこさ踏切が開く。もう既に間に合わないのは確定しており、走る気すら起こらない。
二人はたらたらと歩きながら学校へ向かった。
銀「おはよぉ〜」
薔「おはよう…ふぁ…」
二人はやっと、教室までたどり着く。水銀燈はダルそうだし、薔薇水晶は眠そうだ。
途中梅岡に会って遅刻を注意されたが、そんなことを気にする二人ではない。
紅「おはよう。重役出勤とはいいご身分ね。HRはとっくに終わってしまったのだわ」
入ったとたん真紅にそんな憎まれ口を叩かれた。
銀「そんなことどうでもいいじゃなぁい。次の授業なんだっけぇ?」
紅「自分で調べなさい。時間割くらい持ってるでしょう?」
銀「面倒くさいわねぇ…」
そんなやり取りをしていると、かしましい二人が近づいてくる。
雛「次の授業は英語なの〜!」
金「二人とも、遅刻はよくないことかしら!ちゃんと早寝早起きをこころがけるのがいいかしら!」
銀「雛苺、ありがとぉ」
雛「うにゅ〜一個で手を打つの〜!」
銀「今は持ってないわよぉ」
雛「仕方が無いのー。今度ちょうだいなの!」
銀「しょうがないわねぇ…」
金「無視しないで欲しいかしらーーーー!」
放って置かれた金糸雀が叫ぶ。そんな金糸雀の肩をポン、と叩く影が。
薔「……」(ふるふる)
良くわからないが、首を振られてしまった。そしてじっと見る。二人の動きが止まった。
…しばらく後、金糸雀がガクッと肩を落とす。
薔「…勝った。」
金「負けたかしら…」
紅「ちょっと!私の席の周りでよくわからない世界を展開しないで頂戴!」
いつもの景色、いつもの教室の風景。
今は姿が見えない双子は、あの衝撃の公開告白の翌日から二人して風邪をこじらせて、
ここ2,3日はずっと休んでいた。
自分の席へ移動する途中、そんな二人の空席を見る水銀燈。
今朝見た夢のせいだろうか。少し複雑な表情になった。しかし、その表情は誰にも気づかれない。
ただ、薔薇水晶だけはいつもと違う水銀燈の雰囲気を敏感に感じ取っていた。
<次回予告>
いつもと変わらない日常の中で、様子のおかしい水銀燈。
コレはもしや妖怪の仕業…!そう思った薔薇水晶は、妖○ポ○トに手紙を入れる!
手紙は確かに受け取った!貴方の恨み、晴らします!?
銀「それはどちらかといえば私の役目のような気がするわぁ。声的に。」
薔「でもTV版だからやっぱり違うの…」
紅「あなたたち一体何の話をしてるのよ…」
金「懐かしいアニメと最近のアニメの話かしら!ちなみに共通点は仲間に輪入道!」
雛「次回「The girls of rumor」第2話「昔日のおもひで!」お楽しみになの〜」
注:次回予告は必ずしも予告しているとは限りません。っていうか大嘘じゃんか!