<前回までのあらすじ>
朝っぱらから寝覚めの良くない夢を見てブルーな水銀燈。
そして彼女に猛烈アタックを繰り返す薔薇水晶。
そんな二人のラブ・コメディ「The girls of rumor」第二話「昔日のおもひで?」始まります。
朝の踏み切りの向こうに何かを見かけた水銀燈、
彼女の変調に、ただ薔薇水晶だけが気づいていた…!


「The girls of rumor」第二話「昔日のおもひで?」



結局、その日一日水銀燈はどこかしら心ここにあらずといった風情だった。
薔薇水晶はいつも通りに水銀燈と一緒であったが、普段と違ってすれ違うことも多かった。
そして、放課後…

銀「ごめんねぇ、今日はちょっと寄って帰るところがあるから…」

いつも一緒に帰っていたのに。多少遠くたって、寄り道だって喜んで付き合ったのに。

薔「…わかった」

一人とぼとぼと帰る帰り道。
いつもだったら、何処に行くのかもちょっとは教えてくれたのに。今日はなにも言ってくれなかった。
もしかしたら、朝言っていた昔の知り合い…その人に会いに行ったんだろうか。
その人が、水銀燈の本当に好きな人なんだろうか。
じゃあ、私…薔薇水晶はいったい水銀燈の何なんだろう。
ただの友達?まとわり付いてくるうっとおしい子?…本当に大好きな人の身代わり?
ううん、そもそも、今までたくさん水銀燈に「大好きだよ」って伝えてきたけど
一度も本気にしてもらえたことなんてなかった。だからきっと、身代わりなんてありえない。
…でも、それでも、水銀燈の傍に居られればよかったのに。
彼女の本当に好きな人が、彼女の隣に現れたら、それすら、ダメなんだろうか

薔「……とぼとぼ」
紅「あら。珍しいわね。一人?」

後から声がかけられる。真紅だ。立ち止まって振り返る。
真紅は水銀燈の幼馴染。いつも二人でケンカして、それでも仲がいい。
まるで、昔の猫とネズミのアニメのようだ。
そしてたまに、私にはわからない昔の話を二人ですることもある。
私はいつも、横でそれをただ聞いている。

薔「…とぼとぼ?」
紅「言葉をしゃべりなさい」
薔「うー…わんわん!」
紅「…犬の言葉じゃないのだわ」

渾身のジョークは滑ってしまった。
真紅は大きくため息をつく。でも、顔を上げてフッと優しく笑うと

紅「水銀燈と、何かあったの?」

多分、話の確信であろうことを突いてきた。

薔「…何も無い。」
紅「そう。」

正確には、水銀燈と何かあったわけではない。

薔「…でも…水銀燈、変」
紅「変?」

言わなくてもよかったことかもしれないけれど、自然と口をついて出た。
誰も、水銀燈の様子がおかしい事に気が付いていない。
だから、せめて誰かに、自分の感じた違和感を伝えたかったのかもしれない。

薔「朝…昔の知り合いを見かけた、って言った。その後から、ずっとおかしかった。」
紅「昔の知り合い…?」
薔「そういえば、朝寝顔を見たときも変な顔してた。…悪夢?」
紅「…あなた達。一体普段何をやっているの」

真紅がこめかみを揉んでいる。何かおかしなこと言ったかな?

薔「…?」
紅「…まあ。そうね。水銀燈のことだから。今のあの子じゃ変なことなんて出来ないわね」

良くわからないけれど、真紅は一人で納得してしまった。
でもその言葉の中に一つ気になる言葉があった。

薔「……今の?」
紅「ああ。その辺は気にしないで頂戴。」
薔(ふるふる)
紅「気にするほどのことではないのだわ。昔の話よ。」
薔(ふるふる)
紅「……」
薔「ぶんぶん」
紅「…擬態語を口に出して言わないで頂戴。」
薔「…だめ?」

しばらく無言のまま並んで歩く。そして、立ち止まった真紅はまた大きなため息をいた。

紅「…本当の所何があったのか、どうしてそうなったのか、真実は私は知らないわ。
  これは、私達が昔通っていた中学で、少しは有名になった話。
  でも、私は噂よりも少しは真実に近いところを知っていると思う。
  それは、くだらない尾ひれ背びれのついた噂話を他所から聞くよりも良いと思うから。
  だからあなたに伝えるのだわ。…いい?」

少し真剣な表情になった真紅が私の目を覗き込む。
その昔の話を真剣に聞く気があるのかどうか。
答えはもちろん、聞きたい。
大好きな水銀燈のことだから。知らないよりも知っているほうが、よほどいい。
私は大きくうなずいた。

紅「昔…中学の頃、水銀燈にはとても仲の良い人が居たわ。」
薔「!!」
紅「それはもう、付き合ってるんじゃないか、恋人なんじゃないか、
  とか噂されていたくらいのね。」

やっぱりそうだった。水銀燈には、一番の人がもう居た…
ショックだったけれど、しかし真紅の話はまだ続いた。

紅「でも、実際にはそんな事は無かったわ。ただ、本当に仲がよかっただけ。
  けれど、そのあまりの仲の良さにそういう噂は耐えなかったわね。
  からかい半分のものもあり…悪意ある噂もあり。」
薔「悪意…?」
紅「そうね…薔薇学園はその辺りにはとてもおおらかね。
  保健室には、相談に乗ってくれるHG先生も居るし」
薔「あの先生は良い人…」
紅「でも、あのポーズは正直どうかと思うのだわ。」

そうかな?私は好きだけれど。なんていうか…明るくなれる気がして。

紅「ともかく、そんな噂も流れていたある日に、二人が何か少しケンカをしたみたいだった。」
薔「ケンカ…?」
紅「理由は私もJUMも聞いたけど、彼女達はほとんど教えてはくれなかったわ。
  それから少しして、水銀燈と仲のよかった彼女は…
  持病の治療のために遠くへ引っ越すことになった。
  それも突然の話で、その話を聞いた2、3日後にはもう家は綺麗に片付いてたわね。
  その時以来…水銀燈は、友達とあまり付き合わないようになった。
  私達が心配して、昼や帰り道に誘った時以外ではほとんど一人で居たわ。あの頃は。」
薔「でも…私…」
紅「そうね。高校に入って、あなたと水銀燈が一緒にいるようになってからは、
  その辺りはずいぶん変わった。幼馴染として、それはとても嬉しいことだと思ってるわ」

真紅は、元気の無い私の頭をそっとなでてくれた。

紅「水銀燈もまだ色々とふっきれてはいないみたいだから、
  大変かもしれないけれど、よかったらこれからも水銀燈をお願いね…?」

にっこり笑ってそんなことを言う真紅は…まるで、お母さんのようだった。
気になっていたことを、思わず口に出す。

薔「もし…もしも、その仲のよかった人が帰ってきたら…私は…?」
紅「大丈夫よ。水銀燈はあなたの事をちゃんと好いているはずだわ。
  彼女が帰ってきたとしても、あなたを切り捨てるなんてことはありえない。
  だから、堂々といつものように仲良くすれば良いのだわ。」

そのまましばらく一緒に歩いて、分かれ道にたどり着いた。

紅「じゃあ、私はここで。今日もJUMに宿題とプリントを届けないといけないのだわ。
  …まったく。風邪と思ったらインフルエンザだったなんて。本当に無様なのだわ…」
薔「うん…ばいばい。ありがと…JUM君に、お大事にって。」
紅「ええ。伝えておくわ。じゃあ、また明日。」

優雅に手を振って、歩いていく真紅。その後姿は、何処と無く嬉しそうだ。
真紅はいいな、少し思う。両思い…それはとても難しいこと。
私は両思いじゃなくても良い、とおもった。そうおもってた。
でも、いざ…ずっと独り占めしていたと思っていた席が、
元は他の人の物で…その席を返さなくてはいけない可能性…
もしくは、席をその人にも分けて渡さなくてはいけない可能性…
そんな可能性が出てきたとたんに怖くなった。
真紅の言葉を聞いて、少しはきもちが軽くなったけれど。
でも、やっぱり胸がもやもやすることには、変わりが無かった。

兎「をや。お嬢様、お帰りなさいませ」

家の扉を開けると、ラプラスがいつものように出迎えてくれた。
ラプラスは、兎の顔をした…私のお世話係の人。
両親とずっと離れて暮らしている私の、面倒を小さい頃から見てくれている。

薔「ただいま、ラプラス」
兎「…ふむ。今日の夕食は、何かお嬢様の食べたいものをお作り致しましょう。」

かばんとコートを受け取りながら、私の顔を見ていたラプラスは、そんなことを言った。
ラプラスは、何でも出来る。料理も掃除も洗濯も、家計の管理も家庭教師も。

兎「一体何をご所望ですか?」
薔「…シュウマイ」
兎「でしたら、今日は良い海老が手に入りましたので海老シュウマイにいたしましょう。」

コートをかけて、かばんを持って私の後ろについてくる。

薔「ねえ、ラプラス」
兎「なんでございましょう?」
薔「恋人っている?」
兎「そうですねえ…残念ながら、今は誰も。良い兎のお嬢さんを知りませんか?お嬢様」

笑いながらそんな冗談を言うラプラス。
きっと私の冴えない表情を見て、晩御飯のことといい、気を使ってくれているのだろう。
そんな彼が私は結構好きだ。今の私の唯一の家族。

薔「じゃあ…親友は?」
兎「昔々に別れた親友ならば」
薔「片思い、ってしたことある?」
兎「ええ。昔々にね。それはそれは美人の…兎でした」

ハハハ。彼は笑う。何処まで本当のことかなんてわからないけれど、
一瞬遠くを見た彼の瞳は少し懐かしそうな気持ちを映していた。
私も…いつかはこうやって笑い飛ばせる日が来るのかな。
そんなことを考えていると、笑顔を納め、少しひょうきんな表情に変えたラプラスが、
こんなことを言い出した。

兎「お嬢様?恋の悩みには、相手とのコミュニケーションが足りなくて生じるものも
  多いと聞きおよびます。先ずはお相手の方ときちんとお話ししてみてはいかがでしょう?」
薔「うん…でも、聞いても話してくれなかったら…?」
兎「それならば、そのお相手の方が話してくれるようになるのを待つか…
  もしくは、話したくなるように仕向ける、でしょうかねえ。」
薔「話したくなるように仕向ける…」
兎「その際には、押すだけではダメ。押してだめなら引いてみる
  これが肝要なことかと存じます」
薔「引いてみる…うん、わかった」
兎「なんにせよ、そのお相手の方とはなんともうらやましいお方だ。
  お嬢様にこれだけ想われているのですからね!」

にっこり笑ったラプラスは、部屋のかばん掛けにかばんをかけると、一礼して部屋を出て行った。

兎「お食事が出来たらお呼びします。では、また後ほどに!」

自分の部屋で一人になる。
私服に着替えて、ベッドに腰掛けて考える事は、さっきまでの…真紅とラプラスとの会話。

薔「明日…水銀燈に昔の話、ちゃんと聞いてみよう。そのときに、押さないで引く…」

考えをまとめて、声に出す。言うだけならば簡単だけれど…
はたして、私はちゃんと水銀燈の気持ちを聞くことが出来るんだろうか。
そして、たとえ両思いは無理でもせめて…
私の、大好きだ、という気持ちが真剣であることが伝わればいいな。
そんなことを思いながら、食事までの時間を、私はベッドに寝転がって過ごしたのだった。


<次回予告>
先人達の話を聞いて、決意を固める薔薇水晶!
それと時を同じくして、水銀燈は過去の遺恨に再び出会う!
兎の御紋を持つ薔薇水晶は、彼女に一体何が出来るのか!
薔「…じーんせーらっくーあーりゃー♪」
銀「…あれぇ?助けられるはずの私がなんで…格さん?」
紅「助さんなのだわ…」
雛「お銀はJUMなのー!白一点!」
金「それは…あんまり嬉しくないお風呂シーンなのかしら…
  次回、「The girls of rumor」第3話「過去との遭遇!」よろしくかしら〜!」

注:次回予告はいつも大法螺80%!兎は弥七です。


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