<前回までのあらすじ>
水銀燈と薔薇水晶は、いつも一緒の二人組。
しかしある日、水銀燈の過去の想い人が姿を見せた…!?
その出現に戸惑う薔薇水晶と過去の思い出に悩む水銀燈。
彼女の過去の回想はついにその想い人、めぐとの別れの真相に近づいていく…!
「The girls of rumor」4話、始まります!


「The girls of rumor」第4話「過去との遭遇!後編」



想いが通じ、笑いあう真紅とJUMの姿。私…水銀燈も、めぐも二人を祝福し、
何事も良い方向へ向かっている、そんな事を感じさせる中二になった春の日。
しかし、私は、私の中で何かが変わってきている事を確かに自覚し始めていた…。

「ねーねー、きいたきいたぁ?」
「なになにぃ?」

ざわざわと生徒達の雑談でにぎわう昼休み。
私は真紅とJUMと、めぐとの4人で集まって昼食を食べる。

銀「それでどーなのよぉ。二人ともぉ、ちっとは進展したのぉ?」
JUM「…これ以上何を進展しろっていうんだよ」

赤くなるJUM。赤くなってる、って言う事はつまりわかってる、って言う事なのよね?
私はけらけらと笑いながらJUMをからかう。

銀「そりゃぁもちろん、キス以上ぉ?」
JUM「なっ…!おい!」
紅「水銀燈?…一体何の話をしているの?」

真紅のほうはまるでわからずキョトンとした様子。もう、わかってないわねぇ…
これじゃJUMはその気でも、まだまだ「色々」には遠いかしらねぇ

め「真紅はまだそんなに気にしなくても良いと思うわ。
  わかったらわかったでもっと水銀燈にからかわれるわよ?」

すました表情で言うめぐ。真紅は食い下がる。
しかし、そのすまし顔は崩れない。そして矛先はJUMへと向かう

紅「でも、人のわからない話題でどうこう言うのは卑怯なのだわ!
  …もう、JUM!教えなさい!」
JUM「…!そんなんおしえられるかよ!」
銀「あはは、そんな事も知らないなんてぇ。お子様真紅ぅ〜」
紅「なんですってぇーーー!」

いつも通りの昼休み。私はいつもの日課のように、
出来立てほやほやカップルの二人をからかって楽しむ。
めぐもその様子を面白く眺めながら、諌めたり時々その場をまぜっかえすような発言をかます。

め「でも、そういう水銀燈も詳しい事は知らないのよね?真紅よりちょっと耳年増なだけで」
銀「あ、ちょっとぉ。めぐそういうこといわないでよぉ!」
紅「ほら、水銀燈。あなただってあんまりわかってないんじゃないの!」
銀「でも真紅よりは知ってるわぁ!」

楽しかったあの頃のこと。でも、もう今は昔。
気づき始めていた私の気持ち。それは、めぐに対する想い。

昼食後は、二人ずつに分かれて残りの時間を過ごすことがほとんど。
私はめぐと一緒に購買へヤクルトを買いに行く。

め「好きねぇ。ヤクルト」
銀「美味しいし、乳酸菌は体にいいのよ?」

いつものようにヤクルトを手にとる私に、少し呆れたような表情でめぐは言う。

め「入院してたのってたしかお腹のほうだったわよね。…乳酸菌取りすぎだったんじゃない?」

そしてちょっと意地悪な表情をする。
めぐは、私と話しているときくるくると表情を変える。
傍から見れば、私もそうだったかもしれない。

銀「そんなことないわよぉ。逆にたりなかったんだわぁ。
  先生も体にいいから飲みなさいっていってたしぃ」
め「薬だって飲みすぎは毒になるのよ?」

くすくすと笑いながら、中庭のベンチに二人で腰掛けた。二人同時にふぅ、と一息。

め「ぷっ…今の凄い息合ってたわよね」
銀「きっと最近一緒に居るから似てきちゃったのよぉ」
め「あはは、そうね。水銀燈に似てくるのなら嬉しいかも」
銀「私こそ、めぐに似てくるのなら光栄だわぁ」

二人で笑いあう幸せなひと時。そのとき確かに思った。私はやっぱりめぐのことが好き。
多分この強い気持ちは…友達としての好き、じゃない…

しかしその気持ちを理解した後、幸せな時間の中で少しずつ感じ始める違和感。

「ねぇねぇ、きいたきいたぁ?」
「なになに?」
「B組のCさんとDさん、この前放課後の教室で…」
「えぇ、うっそぉー!キモーい!」
「女の子相手にキスなんて良くできるよね。何?それって変態?」
「レズって言うのよぉ〜」

休み時間。聞こえたクラスメイトの噂話。

「おまえそんな男同士でべたべたしおってなんやねん!ホモか!」
「きもいなー!」
「わはははははは…」

たまたまつけたTVの、お笑い番組。なんとなく、辛くなってチャンネルはすぐ変えた。
いけないこと?私のこのめぐへの想いは気持ち悪い事?

周りの人に聞く事なんて、信じていても、それでも怖くてできなくて…
そんな相談をしたことで関係が崩れたり、変に見られてしまうのが怖くって…
私は本に答えを探す。
雑誌の恋愛相談ページ。私と同じ悩みの人へのその答え。

「そういうのは、女の子にはよくあるのよね。でも、そんなのは思春期の一過性のものだから…」

私のこの強い気持ち、いつかは消えてしまう偽物の気持ち?
めぐは私にとって、男の人の代わりなの?
女性同士の恋を扱った古い小説がある、と聞いて図書館で探して読んでみる。

「世の中の風は私達には厳しすぎる…だから、一緒に…」
「梅子さん…」

二人は互いに手を繋ぎ、一緒に海へ飛び込んだ。
…死ななきゃ一緒になれないの?
もちろんこの小説は、悲恋物。悲恋物の最後で一緒に死ぬ話、なんて腐るほどある。
だけれどこの結末は、今の私には辛すぎるもので。
汚してはいけない図書館の本に、涙がぽたぽたとたれていく。
読み続けられなくなって、その文庫をベッドサイドの棚に置く。

ごろり、とベッドに仰向けに寝転がって、ふと…
病院で、めぐと一緒に読んだあの小説を手にとって、ぱらぱらとめくる。
二人は障害を乗り越えて、最後には皆に祝福されてハッピーエンド。
祝福。二人は男女。立場や身分が関係なくなれば、あくまで普通の男女なのだ。
だから、皆に祝福された。だけれども…私は、どうだろう。
もしもめぐと想いが通じ合ったとしても…きっとその事は誰にも言えない。ママにも。真紅たちにも。
それ以前に、告白した時点でめぐだって私のことを気持ち悪い、と思うかもしれない。
今までの…そしてこれからの、幸せな時間はすべて消えてしまうのだ。

そこまで考えた所で私は眠りの淵に落ちた。
夢の中、私はめぐと一緒に歩く。春の花咲く草原を、二人一緒にどこまでも。
そして帽子をかぶり、白いワンピースを纏っためぐが、私に対して囁く言葉、
それはあの日の、あの時の…病室で聞いたその声で。

「私は好き。あなたが好き。水銀燈。だから…」

その言葉を聞いた後、私は彼女を抱きしめた。

寝る前に見た小説の一シーンと同じ光景。その後二人は、幸せに暮らすはずだ。
それはきっと幸せな夢。なのに私は夢の中でもそれが夢とわかっていて…
目が覚めると、枕には涙の後。わかってる。あれは決してありえるはずの無い光景。

私は決めた。この気持ち、絶対誰にも話さない。めぐにも。誰にも。

朝、いつも通りに学校に向かうさなか、クラスメイト達の噂話が思い出された。
この気持ち、もし周りに知られてしまったら、あの噂の主人公に私がなる。

め「おはよう、水銀燈。…調子悪そうだけど、大丈夫?」
銀「あ、ああ、おはようめぐ。大丈夫よぉ」
め「そう?無理しちゃダメよ?」
銀「あなたにいわれたくないわぁ」
め「それもそうね」

めぐとの会話。暗い気持ちが少しずつ和らいでいく。
気持ちは伝えられないけれど、それでもめぐと一緒に居られればいい…

しかし、決定的なことを私は知る。
それは放課後、校内の2階のトイレに入った時。
私が個室の扉を閉めた後に入ってくる複数の足音とかしましい話し声。

「ねえ。A組のあの銀髪の子、誰だっけ」
「ああ、水銀燈さん?」
「そう、その子。なんかさー。あやしいよね」
「え?誰と?もう彼女が居るJUM君以外に特に近い男子いないじゃん」
「男じゃないって!ほら、あのいつも一緒に居る病弱な子…」
「あー。仲いいよね…たしかに、なんか視線とかべたべたした感じが怪しい感じかも?」
「そそ。もしかすると、もしかするかもって、最近噂になってるよ」
「あはは、かもねー。あの子達二人ともあんだけ整った顔してるのに男の影一つ無いしね。」
「それに、この前のB組の二人のこともあるしさ。結構居るのかもしれないね〜」

がたん!

銀「……」

思わず、扉を開けて出てしまった。遅かった。既に周囲には気がつかれていた…!?

「あ…水銀燈さん…!」
「ご、ごめん、そんなつもりでいったんじゃ…」

私はそのとき、凄い形相だったのかもしれない。
クラスメイトの子と、顔を見たことのある隣のクラスの子、どちらも青い顔をしていた。

銀「……いいわ。気にしてないから。」

私は言って、手を洗って外に出る。気まずい雰囲気が残っただろう。きっと。
だけれど…気分的に、それどころじゃなかった。
このままでは、めぐにも迷惑がかかるかもしれない。
あくまで彼女を好きなのは私であって、彼女には何の罪も無い。
廊下を歩いていると、皆様々に集まっておしゃべりを楽しんでいる。
そんな事、あるはずが無いのにその一つ一つでめぐと私のことが噂されているような気がする。
ありえない。わかってる。でも…
教室にたどり着く。JUMと真紅が帰り支度をして立ち上がるところだった。

銀「めぐ、めぐは知らない?」
JUM「めぐ?…ああ、そういえば下駄箱に先に行ってるって伝えてくれって。」
紅「…水銀燈。顔色が悪いわ。何かあったの?」
銀「いいえ、何も…何も無いわ。下駄箱ね。ありがと。じゃあね」
JUM「あ、おい!」

挨拶もそこそこに私はかばんを持って走った。
後からJUMの呼び止める声が聞こえたけれど、私はそれを振り切って走る。

銀「はぁ、はぁ、はぁ…めぐ!」
め「水銀燈、どうしたの!?」

びっくりしたような表情のめぐ。
ぜえぜえと荒く息をつく私に、急いで駆け寄ってきて、支えてくれた。
しかし…それを横目に見て過ぎていくクラスメイトの視線がどうしても気になった。
支えてくれたその手を押し戻す。

銀「…ごめん、なんでもない。かえろ?」
め「え、うん…」

靴を履き替えてから、彼女の手を強引に引っ張って校舎を出る。
帰りの道すがら…私達はいつものように二人で歩く。
けれど、今日は私の異様な雰囲気をめぐも悟っているのか、言葉はどちらも発しない。
もうすぐ、分かれ道が近づいてくる。彼女にこれ以上迷惑をかけないためにも、言うなら今しか……

め「…ねえ。私、相談し…」
銀「めぐ!」

先に口を開きかけためぐを制する。

め「…何?」
銀「あの、さ。私達、少しはなれたほうが良いと、思うの…」
め「!突然どうして…」
銀「理由なんて……」

言いかけて、思い直す。それではきっと、説得なんて出来ないだろう。
私だって彼女と離れたくなんて無い。今のまま、ふたりで仲良く話していたい。
でも…きっとこのままでは、私のせいで、私の想いの性でめぐに迷惑がかかる。

銀「…あのさ。最近噂がたってるんだ」
め「噂?」
銀「あなたと私のこと。…レズだ、って」
め「!?…そっか。それじゃあ、一緒に居るの迷惑だよ、ね…」

俯くめぐ。そんなこと、そんなことない!心の中で私は叫ぶ。でも、口に出たのは…

銀「うん…迷惑…だから…」
め「……わかった」

互いに最後は消え入りそうな声で。分かれ道に着く。
私達は、そのまま振り返らずにそれぞれの家路を歩いた。

それが、私とめぐの決定的な別れだった。
翌日からは、めぐと私は事務的な会話以外は一切することなく、
昼も真紅達と合流することなく一人で食べた。
真紅もJUMもそんな私達の様子に驚いて色々聞いたり心配してくれたりしていたが、
少なくとも私はその件について何も言わなかった。
そして数日後…めぐは持病の本格的な治療のためにアメリカへ発つ、ということが、
朝のホームルームで告げられた。突然の事だった。
内心では、何故それを早く教えてくれなかったのか、と詰め寄って聞きたかった。
しかし、それはもう出来ない。彼女と私はただのクラスメイト、なのだから。
私は、何も言わずに彼女を送り出した。

帰り道、商店街の玩具屋に、一つのぬいぐるみが並んでいるのをみつける。
それは、白い羽を生やした、黒い兎のぬいぐるみ…思わず足を止めた。
どこかで見覚えのあるこの兎の顔。思わず家に買って帰った。
その黒い兎を眺める。黒い毛並み、黒い瞳…そして白い羽。この兎は彼女にそっくりだ。
…そう思ったとたん、涙があふれる。
その晩私は黒い兎を抱きながら、涙が枯れるまで、泣いた。


<次回予告>
近づいてくる思い出の場所!水銀燈は、はたしてめぐに会うことができるのか!
会って気持ちを伝える事ができるのか!
そして忘れ去られたもう1人の主人公、薔薇水晶の行方は!
薔「…負けてる?ねえ、私負けてる?」
紅「負けているわね。明らかに。」
雛「存在感から何から何まで、描写まで負けてるの〜」
金「仕方ないかしら〜。故人の思い出には勝てない、かしら。」
銀「ちょっとまって。…めぐは死んでないわよ?」
薔「…それなら、勝つ!」
JUM「はぁ…次回「The girls of rumor」第5話「再会の時!?」。よろしく」

注:次回予告は今回のは高確率で当てになるようなならないような感じです。


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