<前回までのあらすじ>
薔薇水晶と別に学校を出た水銀燈は、昔の想い人めぐとの出会いと別れを思い出しながら、
彼女との記憶の場所へと向かう。
水銀燈は果たして、2年の歳月を超えてめぐと会って話す事ができるのか…?


「The girls of rumor」第5話「再会の時!?」



彼女との別れまでを鮮明に思い出した頃、水銀燈は商店街を抜ける。
目的地はこの先だった。T字路の分かれ道。めぐと水銀燈が別れたあの場所…

当たり前のように私はここでめぐと約束しているわけじゃない。
そもそも、朝見たあの姿だって…見間違いだったかもしれないのだ。
だけれど…今朝の夢、そして噴出すように思い出したあの時の辛い記憶。
それに押されて、朝見た黒髪の少女がめぐであると思い込んで…その挙句にここまで来てしまった。
少し冷静になってみれば、なんてバカなんだろうと思う。
けれど…もし、もう一度彼女に会えるなら…

T字路にたどりついた。そこには…誰も居なかった。

銀「…そうよね…私、何考えてたんだろ…」

自然と一人ごとが口をついて出る水銀燈。そのまま近くの家の塀にもたれかかる。
空を見上げると、夕暮れも近い赤くなりかけた空、
そして電信柱から伸びて重なり合い、縦横に走る電線が広がっている。
その風景を暫く眺めてから、もう疲れた…と目を閉じた。
暫くの時がたち…

?「…久しぶり」

目を開ける。その前には、忘れようも無いその姿。

銀「めぐ…?」

これは夢か幻か。水銀燈をじっと見て、記憶にあるよりも少し大人びた姿になっためぐが微笑んだ。

め「そうよ。幽霊か何かとでも思った?」
銀「ううん、ううん、そんなことない…」

水銀燈の紅い瞳から、自然と涙がこぼれおちる。

め「ちょ、ちょっとなんで泣いてるのよ…!?」

驚いためぐは、涙を流しながら倒れこんでくる水銀燈を慌てて抱きとめる。
しかしそんな二人の横を、買い物帰りの人々が、
何があったのかとちらちらと横目で見ながら通り抜けていく。

め「ああもう、ほら、せめてこっちにきて…」

暫くは泣き止みそうに無い水銀燈を、めぐは引っ張って歩いた。
この近くには、確か小さな喫茶店があったはず…

カランコロン

入り口を開くと、扉に付けられた鈴の音が響く。

「いらっしゃいませ」

静かな声と共に店員が迎える。そして、人の少ない奥の窓際の席へと二人を案内した。
そこに椅子を並べて座り、めぐは水銀燈が泣き止むのを待った。

銀「…ごめん」

夕日が段々沈み行く中で、やっと泣き止んだ水銀燈が小さくつぶやく。

め「ううん、いいわよ。久しぶりに会ったと思ったらいきなり泣き出すんだから、驚いちゃったわ」
銀「ごめん…」
め「気にしないで。今日はなんか暗いわよ?水銀燈」

泣き止んだ様子を見てか、やってきた店員に一人ずつ飲み物を頼む。
めぐはコーヒー、水銀燈はココアを。どちらもホットで。
店員が戻っていったあと、二人は改めて向き合った。

銀「めぐ…」
め「何?」
銀「あの時、ごめんね…」

そんな言葉が自然と口から出た。
何に対してかはともかく、水銀燈はとにかく謝りたかった。謝らなくてはいけないと思ったのだ。

め「あの時…って?」
銀「昔の…あのね。私、昔めぐのこと好きだった。すっごく。多分…LikeじゃなくてLoveの方…」

言ってしまった。もう昔のことである、と思っていたから言えたのか。
それとも、告白した翠星石のあの姿を思い出したからなのか。
そして突然の告白を、何も言わずに聞いているめぐ。
早く言ってしまいたい、とばかりに水銀燈は早口で語り始める。

銀「それで…あの時、噂が流れて……このまま一緒にいたらめぐに迷惑がかかると思って…」

再び涙があふれ始め、言葉も順番もめちゃくちゃになりながら、
そのときの心情や、めぐに対する気持ちについて話していく。
全て話し終えて、下を向いて黙りこくった所で…水銀燈はめぐに、抱きしめられた。

め「よかった…嫌われてたんじゃ、なかったんだ」
銀「私がめぐを嫌ったりなんて…逆に、あの時は…嫌われてしまうって…
  それに、私めぐのこと、好きだったんだよ…?気持ち悪いとか、思わなかったの…?」
め「まさか。どっちかっていうと…あの頃は、両思いだったかも。」

驚く水銀燈に、めぐは目じりに少し溜まった涙をぬぐいながら微笑む。

め「私もね、あの時はほんとに驚いちゃって。
  アメリカに行くかどうか決めかねて相談しようと思ってたんだけど…行くって決めて。
  出発するのだってもっと後で良いって言われたのにすぐ行くって言って。
  水銀燈に迷惑になるのは嫌だったし…もう完全に拒絶されたって思ってた。
  傍に居ても話せないくらいだったら、いっそ見えないくらい遠くに行っちゃおうって思って。」
銀「めぐ…」
め「だから、いまさらだけど、気持ちが聞けてよかったわ」
銀「うん…私もめぐにちゃんと言えてよかった。ずっと気になってたの」
め「私もそう。今回は用事でこっちに戻ってきたけど…水銀燈に会えたらいいな、って
  ちょっと思ってた。そうしたら、水銀燈がふらふら商店街歩いてるのよ。
  あなたの銀色の髪、こっちではずいぶん目立つし。遠くだったのに慌てて追いかけちゃった。」
銀「あら。めぐの髪だって、そんなに綺麗な子は日本にもほとんど居ないわよぅ?」

笑いあう。2年の間離れていた二人だったけれど、その様子はまるで仲の良い姉妹のようだった。

銀「そういえば、朝も踏み切りのところで見かけたのはぁ…?」
め「あ、それも気が付いてた?あの学校に通ってるっていうのは真紅に手紙で聞いてたから。
  …登校途中にひょっこり会えないかな、ってちょっと探してたの。
  見つからなかったけど…どこにいたの?」
銀「実は……」

それから、二人は別れてから今までの事について、会えなかった時間を埋めるように語り合った。
いつの間にかテーブルに置かれていた、注文の品にそれぞれ口をつけながら。
そしてひとしきり今までの事について話し終わった後、穏やかな空気が二人の間に流れる。

め「さっき、さ。好き「だった」って言ったじゃない?」
銀「うん。」
め「今はどう…?」

既に日が暮れて紺色にそまりつつある空を眺めながら、めぐが聞く。

銀「今は…そうねぇ。」

同じく、窓から見える空を眺めながら、水銀燈。お互いに視線は絡ませない。

銀「好き、であることにはかわりはないけど…昔とは違う意味、かな」
め「…そっか。」

なんとなくすっきりした表情でめぐは言う。

銀「ちょっと期待してたぁ?」

視線をめぐに向け、にっこり笑った。

め「うふふ、さっき私も言ったでしょ?あの頃は…って。私も大体一緒。」
銀「そっかぁ。ちょっとざんねぇん」
め「なにいってるのよ。他に好きな子居るんでしょう?水銀燈も」
銀「も、って…?」

聞きとがめて首をかしげる水銀燈に、めぐは返す。

め「実はね。向こうで告白されたの。…多分、好きな人から」
銀「多分、って…」
め「今までずっと…あなたとあんな別れ方した事が気になってて、
  ちゃんと考えられなかったのよ。今はちょっと考えさせて、って言ってあるの」
銀「そうなんだ…どうするの?」
め「今のでちゃんと吹っ切れたわ。向こうに戻ったらOKって言うつもり」
銀「そっか。…おめでとう!」

祝いの言葉が素直に出てくる。水銀燈も、やっと過去の気持ちを振り切る事ができたのかもしれない。
お互いににっこり笑いあうと、めぐは立ち上がる。

め「そろそろホテルに戻らなきゃ。」
銀「ホテルに泊まってるのぉ?」
め「うん。向こうに完全に引っ越しちゃってるから、こっちには家無いし」
銀「そっか…明日とか、まだあいてるぅ?」
め「ごめん、明日にはもう帰らなきゃ。実はこっちに居るのは今日が最終日なの」
銀「残念…真紅とかJUMにも会って行けばいいのにぃ」
め「出来れば会いたかったけど…でも、水銀燈に会えただけでも十分だったわ」

やさしい表情で微笑むめぐ。

め「二人にはよろしく伝えておいて?」
銀「わかったわぁ」

そして、二人でお金を払って喫茶店を出た。
喫茶店のマスターは、どうやら泣き止んで落ち着いたらしい二人をやさしい微笑で見送った。

カランコロン

やさしい音色が二人を送り出す。

め「ねえ。私、向こうに帰ったら恋人と一緒の写真を送るわ。
  だから…水銀燈も、送ってくれない?」
銀「ええ!?私にはそんな人…いないわよぅ?」
め「何言ってるの。さっき話した中に出てきてるんでしょう?
  その子のことを話してるときだけ表情が違ったわよ。ともかく、約束よ!」
銀「ちょっとめぐぅ!」

そのまま走っていってしまう。
日の暮れた商店街の中、ひとりとり残された水銀燈は、困った表情で…少し紅くなった頬をかいた。


<次回予告>
とうとうやつが帰ってくる!
忘れ去られた主人公!薔薇水晶が帰ってぐへあ
銀「なにやってるの薔薇水晶…」
薔「…ナレーションウザス」
紅「事実なのだからナレーションを殴っても仕方が無いのだわ」
雛「だいじょうぶなのー。薔薇水晶は、きっと次も出番すくもがもが」
金「おほほほほ!なんでもないかしら〜!」
薔「…次回「The girls of rumor」第6話「薔薇水晶」もしかしたら次が最終回かも…」

注:次回予告は粉砕バットで粉々に打ち砕かれました。路線変更で次が最終回の可能性があります。


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