注:前回ナレーションが薔薇水晶に粉砕されたため、今回はナレーション無しでお送りします。
<前回までのあらすじ>
薔「たとえ思いが伝わらなくても、一緒に居れればそれでいい、私はそう思ってた。
それでも、できれば隣に居たい。だから聞きたい。その為に…水銀燈の昔の話」
銀「とうとうめぐと再会できた。昔のことは…やっと振り切る事が出来たと思う
だけれども、彼女が向こうに帰る時、一つの宿題を渡された。それは…」
薔・銀「「The girls of rumor」最終回。始まります」
「The girls of rumor」6話「薔薇水晶」
めぐと2年ぶりの再会を話した翌日…私はいつも通りに目をさます。
銀ママ「おはよう」
銀「おはよう、ママ。」
朝ごはんを食べてから、身だしなみを整えて、制服に着替える。
いつもの朝。本当にいつもの朝だ。
……さっきから、横でずっと着替えに見入っている薔薇水晶を除いて。
銀「…なんでまたうちに居るのよぉ!朝からぁ!!」
薔「…今日の寝顔は、安らかでした。」
サムズアップで視線を外さず答える薔薇水晶
銀「質問に答えてぇ!っていうか人が着替えるの凝視しないでぇ!」
…これでも途中まではその存在をなるべく気にしないようにしていたのだ。だけど…
パジャマの上を脱いで、薔薇水晶の「…おぉ♪」という声が聞こえた所で耐えられなくなった。
着替え途中だが仕方がない。
脱いだパジャマで上半身を隠しつつ、私は彼女の頭を無理やり後に向ける。
銀「もう、後ろ向いてなさい後ろぉ!」
薔「ぐえ。…女の子同士…恥ずかしがらなくてもふっぼふっべふっ」
ついでに布団と枕、その他もろもろでベッドに沈めた。
これで暫くおとなしくしていてくれるといいのだけれど。
・・・
今朝は…水銀燈の家に行くのが、少し怖かった。
だけれど…もし、今日行かなかったら。真紅には…そんな事はないって言われたけれど。
もしかしたら、そのまま水銀燈と疎遠になってしまうんじゃないか…なんとなくそんな恐怖があった。
それに、朝いつものように会いにいかなかったら…
怖気づいてしまって、水銀燈から話を聞く事も出来なくなるような気もした。
ピンポーン
いつものようにベルを鳴らす。時刻は昨日よりは少し遅く。水銀燈は、まだ寝てるだろうか。
扉が開いて、水銀燈のお母さんが迎え入れてくれた。
水銀燈のお母さんは、水銀燈と顔立ちや髪の色、目の色はとても良く似ているけれど…
雰囲気だけで人はこれだけ違って見えるものなのか、と言うくらい違う。
どっちかと言えば、鋭い雰囲気の水銀燈と比べて、とてもおっとりで、あったかい感じ。
あんまりお母さんに会えない私にとっては、お母さんという存在を身近に感じさせてくれる大事な人。
銀ママ「いらっしゃい、薔薇しぃちゃん。銀ちゃんならまだ上で寝てるから…
時間になったら起こしてあげて?」
薔(こくこく)
中に入って階段を上る。水銀燈の部屋はこの先…扉の前に立つ。
やっぱり、ちょっと手が震える。でも、逃げない。
大丈夫。私は水銀燈と今日も一緒。これからも一緒!そう気合を入れてそっと扉を開く。
音を立てずに扉は開き、私は部屋に滑り込む。後手に扉を閉めてベッドへと近づいた。
よかった。水銀燈はまだ眠っている。昨日と違ってとても安らかな寝顔。
また布団に入ろうかと考えて…今日はやめた。
眠くは無いし、万が一また寝入ってしまったら、今日も水銀燈に怒られてしまう。
私は、じーっと水銀燈を観察する事にした。じー…
30分後。私はなぜか布団の中に埋められた。…なにがいけなかったんだろう。
・・・
着替え終わって準備も万端。時間も十分。今日は学校に遅刻しないかな、と思ったところで横を見る。
いまだ埋まりっぱなしの薔薇水晶。
銀「行くわよぉ?早く起きて…」
彼女は、布団の塊の中から下半身だけ出た状態でベッドに転がっている。
…もしかして、埋めたせいでまた眠ってしまったんだろうか。
銀「仕方ないわねぇ…」
両足をわきの下に挟んでかかえて、一気に引っ張り出した。
ズボッ
薔「…学校、いく?」
銀「…そうね。いくわよぉ」
どうやら起きていたらしい。暫くそのままにしていると、
じたばたし始めたので、足を下ろす。…ちょっとかわいかったかも。
銀「いってきまーす」
薔「…まーす」
家を出て、学校への道のりを歩いていく。今日は綺麗に晴れた空がどこまでも続く快晴だ。
銀「良いお天気ねぇ…」
大きく延びをしながら歩く。昨日、やっと長年の気持ちに整理がついた、そのおかげかもしれない。
気分もとてもすっきりしていて、今日一日はとても良い日になりそうな、そんな気がする。
そう思って歩いていると、
ななめ後ろを歩く薔薇水晶が制服の二の腕の辺りをぎゅーっと引っ張ってきた。
振り返れば、何か言いたそうな薔薇水晶の顔。
気分が良いのも手伝って、私はにっこり微笑みかける。
銀「なぁに?薔薇水晶?」
・・・
…埋まりながら、私は考える。
一体どうやって、聞こう。何をどういう風に、聞こう。
水銀燈に、昨日の朝以降のような変な感じは見られなかった。
それは、もしかしたら昨日その…好きな人に会えたからかもしれない。
水銀燈が元気になったのはとても良いこと。だけど…
…そんな風に考えていた所で、何か呼ばれたような声。
しばらくすると、足を抱えられたような感触と共に、布団から引っ張り出された。
薔「…学校、いく?」
銀「…そうね。いくわよぉ」
そのまま水銀燈の顔を見上げていると、なにやら呆れたような顔をされた。
暫くすれば放してくれるかと思ったら中々放してくれない。
この体勢は…ちょっと恥ずかしいかもしれない。じたばた
…下ろしてもらえた。
そして、家を出た私達。機嫌のよさそうな水銀燈は、大きく伸びをして歩き始める。
私もいつものように、その後を歩き始めた。
そして、歩きながら考える。…何はともあれ聞き始めるきっかけが必要かもしれない…
きっかけ。…ラプラスは、押すんじゃなくて引くのが大事、って言っていた。
だから…私は、少し前を歩く水銀燈の服の袖を、ぎゅーっとひっぱったのだ。
・・・
薔「…あのね」
銀「うん」
歩きをとめて薔薇水晶を見る。何かとても言いたそうな表情をしているのはわかるのだけれど…
薔「…う……うらうらべっかんこー…」
銀「???」
薔「遅刻する。学校」
そのまま後ろからぐいぐいと押されてしまった。
…一体何が言いたかったんだろう。
良くわからないまま、遅刻する事も無く私達は学校につく事になる。
そして、教室に入って互いに席にかばんを置きにいった所で…
翠「翠星石だーいふっかぁつでぃーす!!!」
…かしましいのがはいってきた。ここしばらく風邪を引いて休んでいた翠星石だ。
何かいつも以上に元気な翠星石は、おもむろに教壇の上に上がって、教卓をばん!と叩いて…
翠「というわけで、翠星石が帰ってきたからにはぁ!
この目が黒いうちには蒼星石には手出しさせんです!特にそこのベジータ!!」
べ「俺か!?」
翠星石の目は赤と緑な気がするんだけれど。その辺りは突っ込んでもせんないことだろう。
…っていうかまた翠星石暴走し始めてるんだけど…片割れはどこに行ったの片割れは。まだ休み?
翠「そうです!この前鼻血垂らしながら蒼星石に迫りやがったのは忘れないデスよ!?」
べ「まて!俺はそんな事した覚えないぞ!?」
翠「きーっ!まだ言うデスか!この変態!にんぴn」
ガスコッ
翠星石の背後から、首筋に強烈なチョップが入る。
思わずくたりと倒れた所で、後ろから現れた人影に担ぎ上げられた。
蒼「みんなごめんね、また姉が変なことを…」
やっと現れた、双子の片割れ。いつものように良い手際。
苦笑しながら、回収した姉を担いで悠々と席へ向かう。これももう、ある意味クラスの風物詩ね。
蒼星石も、他の人間ならいざ知らず、自分の姉にだけは無類の強さを発揮する辺り不思議なもの。
彼女が席に向かう途中、笹塚君が声をかけるのが見えた。
笹「あのさ…ベジータこの前の事覚えてないみたいなんだ。
多分強い衝撃で記憶が飛んだんだと思うけど」
蒼「ああ、うん。気にしてないから大丈夫。あれだけ思いっきり殴られたんだしね…」
笹「だね。…翠星石さん大丈夫?」
蒼「平気だよ。いつもの事だし」
そして、二人は別れて席に戻っていく。
しかし、その途中で思い出したように蒼星石が笹塚君を呼び止めた。
蒼「あ、そうだ。翠星石はもう、僕の、だから」
にっこりと微笑む。
…どうやら、あの二人は上手く行っているみたいだ。
数日前の泣きじゃくった翠星石の姿が思い出される。
それが数年前の、黒い兎を抱いて泣いた自分とも重なって…私は少し微笑んだ。
彼女はあのときの自分とは違って、ちゃんと向き合って幸せをつかむ事ができた。
もちろん失敗する可能性だってあったわけだけれど…運命の女神は彼女に微笑んだのだ。
私は、結局めぐとは幸せになれなかったけれど、そのときの思い出に縛られすぎないで…
これからはこの、自分の性質にもっと前向きになって頑張ろう。そう思う。
気が付くと、私の後ろに、お気に入りのペットボトルを持った真紅が立っていた。
紅「今日は機嫌が良さそうね」
銀「…そう?」
紅「ええ。あのさらにバカップルになった二人を見て微笑む余裕があるのはいいことだわ」
銀「そうかしら。…そういえば、さ。めぐが…あなたとJUMによろしく、だって」
紅「…そう。わかったわ。JUMにもそう伝えておくわ。」
真紅が、いつものように上品に。けれど、いつもよりは嬉しさを隠し切れないように、微笑んでいる。
…考えてみれば、真紅にもJUMにもあの時から色々迷惑をかけた。
恥ずかしいからお礼なんていえないけれど、二人には感謝してもしきれない。
だから、せめてもの気持ちとして…少し照れながら真紅ににっこりと微笑みかけた。
伝わっているかどうかなんてわからないが、それでもこれで感謝の気持ち。
二人に何かがあったときには、今度は私が力を貸そう。
突然、彼女の後ろに二人の人影が。
真紅がペットボトルに口をつけ、飲もうとした瞬間に…真紅の首の後ろから手が生えた。
ドカッ!ぶふぅっ!!
見事なまでの弧を描き、吹き上がる午後ティーストレート。
雛「真紅ぅ!たいへんなのー!」
金「たいへんかしらー!!」
クラスの陽気な二人組み。委員長の金糸雀と、その親友の雛苺。
この二人はいつも元気。願わくば…真紅だけならともかくとして、
周辺にまで被害を及ぼすのはやめて欲しい。
午後ティーでびしょびしょになった机を眺めながらそう思う。ついでに言えば私にも少しかかった。
紅「げほげほがふ…っ!!…ふたりとも!!!ラリアットはやめなさい、とあれほど…!!!」
真紅が笑う二人に説教を始めたところで、午後ティーのかかった髪がそっとハンカチで拭かれる。
薔「…水銀燈、紅茶も滴るいい女…」
薔薇水晶だった。髪と制服についた紅茶を綺麗に拭き取った後は、
雑巾を取り出して机を拭きはじめる。そして、彼女は小さな声で言ってきた。
薔「水銀燈…聞きたい事、いっぱいある。昔のこととか…いっぱい」
珍しく、薔薇水晶が視線を合わせない。私を見ずに、濡れた机の上だけを見て、そんなことを言う。
もしかしたら、朝からずっと何かが言いたそうだったのはこの言葉、なのかもしれない。
言い終わった後、薔薇水晶はおずおずとこちらを見上げてくる。
…そんな彼女の様子が、私にはとっても可愛く…愛しく感じられた。
私はにっこりと微笑んで、立ち上がる。
銀「もう机は拭かなくてもいいわぁ。
どうせこの陽気なら…一時間目が終わる頃にはきれいに乾いているわねぇ」
そしてさっさと教室の扉へ向かう。
途中で、二人にいまだぬかに釘とでも言うような説教していた真紅に
銀「じゃ、私達はちょっと気分が悪いからぁ。保健室に行って休んでくるわぁ♪」
それだけ言付けると、教室の扉から出て歩き出す。薔薇水晶も慌ててついてきたみたいだ。
銀「行き先は…そうねぇ。非常口外の林がいいかしらねぇ。そこで、全部話すわぁ」
彼女の方を少し振り返ってそう告げる。普段ほとんど無表情な彼女の顔が、小さくほころぶ。
他の人には、わからないくらいの表情の変化かもしれない。だけれども、私にははっきりわかった。
…やっぱり、私にとってこの子は特別。改めてそう思う。
きっと、素直にならなければわからなかった。
いや、わかっていてもわからない振りをしていたと思う。
その特別が、恋心なのか、それとも別の何かなのか、まだ確信には至っていないけれど…
願わくばこの幸せな想いが、ずっと続くものでありますように!